『17歳のテンカウント』 概要

 ー 日比谷線脱線衝突事故で逝った麻布高生・富久信介の生涯 ー

2001年2月4日

1.はじめに

 2000年3月8日、営団日比谷線で起きた脱線事故は、5人の生命を奪い、64人の負傷者を出した。理不尽にも生命を奪われた人の中に麻布高校生、富久信介がいた。この日は期末試験の最終日。1時限目は地学だったが、履修していなかったため、2時限目の英語の試験を受けるべく通常とは異なる時間帯に折悪しく乗車したのである。衝突した電車の金属片が左頭部を襲い、即死の状態だった。非業という言葉では片付けられない、余りにも無残極まりない17歳8ヶ月の最期であった。

 彼はやりたいことがいっぱいあった若者だった。そして何事にも積極的に取り組んだ。小学校、中学校ではサッカーに打ち込み、高校に進んでからはラグビーとボクシングに熱中していた。学校の放課後はラグビーの練習、それが終わると自宅近くにある大橋ボクシングジム(元WBA・WBC世界チャンピオンの大橋秀行さんが会長)に毎日のように通って、午後7時から9時までプロのメニューをこなした。1999年のインターハイ東京都の予選には、クラスの担任に頼み込んで自ら作ったたったひとりの麻布高校ボクシング部から出場し、決勝まで進んだが、惜敗。ボクシングのスタイルは前へ前へと進むブルファイターだった。2000年5月の予選に全国大会出場の夢を賭けていた。そして将来は、学生プロボクサーになることを目指していた。

 スポーツに夢中だったが、学業の成績も良かった。いわば、文武両道を備えた硬派の若者だった。一方で、友人や父親の友人たちと徹夜でマージャンに興じたり、ラーメンにこったり、という側面も持ち合わせていた。

 友人たちは「いまどき珍しく骨のある男」「あんなに自由に生きているやつを知らない」と大きな信頼を寄せていた。

2.内容

 この若者がどんな生き方をし、何を目指していたのか。事故さえ起こらなければ人生の中の1ページでしかなかったはずである。だが、それは起こった。17歳8ヶ月まで、彼の人生は輝いていた。

 その輝きを周囲の友人たちあるいは大人たち総計60人にインタビューして編んだのが本書である。

 もちろん、何かを成し遂げた訳でもない、無名の高校生の生涯である。だが、その生き様は周りの人々を魅了するほど、芯が通っていた。目的意識を持ち、夢を探し追い求めて、武骨に一所懸命に努力し、生きていた生涯だったからだ。サッカー、勉強、ラグビー、ボクシング。才能にも環境にも恵まれていたが、彼はどれに対しても、目標を持ち、人並み以上の努力をした。

そうした姿が、周りにいた人たちの証言で生き生きと等身大に再現されているとともに、友人たちの言葉をでき得る限り忠実に収録することで、この世代の姿も窺い知ることができるようにも構成している。

 さらに、本書には家庭、塾、学校など子どもにどんな環境を整えてやることが必要なのかも読み取ることができる内容をあわせ持っている。たとえば、管理教育とは対極にある麻布学園の教育理念。生徒の個性を認め、校則もなく、のびのびとした自由な学校である。そうしたバックボーンがあって初めて、子どもたちは大事な思春期を大人に向かってすごすことができる。そういうことでは、その年代の子どもを持つ親には参考になる内容である。

 いずれにしても、こうした等身大の実像は共感から、反発までさまざまな反応を同世代の若者たちに起こすだろう。自己を見つめ直したり、発見したりできる契機になりうるという意味で。さらに、繰り返しになるが、この年代を子にもつ親たちにとっても多くの示唆を与えるものである。

3.目次

 富久信介の小学校時代の仲間、麻布高校の仲間、サッカーの仲間、ボクシングの仲間、学校や塾の先生、ボクシングジムの会長をはじめとする大人たち、そして肉親、総数60人へのインタビューを軸に構成された本書の目次は以下の通り。

はじめに
第一章 伸びやかな幼年時代
いい出したら聞かない子/小さなガールフレンド/優れた運動能力/泣いて嫌がった勉強/負けず嫌いとアトピー/照れ屋で臆病
第二章 小学校のヒーロー
幼年時代からの脱皮/スポーツ漬け/六人をごぼう抜き/サッカー狂い/Jリーグのジュニアユースに落ちる/大人で子どもの悪ガキ/何でもできる落ち着いた子/教師との確執
第三章 中学受験のために塾通い
帰りは父親と/寡黙な男/勉強漬けの日々/特別コースの仲間たち/麻布中学にパス
第四章 麻布中学サッカー部での葛藤
「デケェーやつ」/鮮やかなシュート/仲間に教える/エースストライカー/味方に切れる/薄い先輩や後輩とのつながり/家での鬱憤晴らし/キャプテンをブン殴る/サッカー部との別れ
第五章 自由奔放な学園生活
騎馬戦の大将/禁止の麻雀を/麻雀友だち/勝負師/スキー場でもギャンブル/寝てるか漫画を読むか/テストは人の情けで/それでも頭はいい?
第六章 力あるものへの傾倒そしてこだわり
殴ることの美学/ラーメンへのこだわり/ノリノリの打ち上げ/変わることなく、大人で子ども/きっちりした金銭感覚
第七章 やっと見つけた麻布での居場所
手抜きの練習/無手勝流のラグビー/合宿で麻雀/当たりの強いフランカー/居場所はラグビー部/「ノーサイド」世界との別れ
第八章 ボクシングに求めた自己実現
東大生ボクサーになれ/練習頑張る人/自宅での筋トレ/トレーナーとの出会い/たった一人の麻布高校ボクシング部/強烈なパンチ力/弱いディフェンス/素直な反応/周りを驚かせた喜怒哀楽の激しさ/脱臼癖/スタミナ不足/授業を抜け出してロードワーク/最後の試合
終章 それぞれの夢
親とは口をきかない年代?/将来の夢
終わりに                         

4. 稿枚数

 400字詰め原稿用紙約260枚

5. 型・発行部数・定価・JANコード

 B6判並製、10,000部、税込み1000円
 ISBN4-8172-0213-0, C0095, Y952E

6. 刊行期日

 2001年3月3日

7. 発行元

 発行元:亘香通商株式会社

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