「飲みにいった帰り道でSさんが、『素人と喧嘩してーよ』といったのはよく憶えてます。おれはボクシングやってるから、余裕だみたいな感じで」

 最後のエピソードなどは、ボクシング関係者が聞かせられない話だ。しかし、これはフィクション、目くじらを立てることもない。さりながら、フィクションとはいえ、店員や通行人をブン殴るようなシーンがなかったことは、よしとすべき。

変わることなく、大人で子ども


 さて、仲のよい友だちとは結構つるんだり、バカをやったり、はしゃいだり、騒いだりしている信介だが、遠目にはそう映っていないのが不思議といえば、不思議なことである。
ひとえに、無口であるからなのか、精悍な顔つきのせいなのか。それともバカをやる場所や人を選んでいたのか。

「彼は麻布生の中では変わっていましたよね。要するに、つるんだりして何かやるという雰囲気はぜんぜんないし、調子にのってふざけ合うこともまったくない。いつもひとりでいたという感じが、教室のなかでもそういう印象が強い。

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