ボクシングというのは上半身も下半身も双方動かさなきゃいけないですから、そういった意味でのスタミナの補強というのは、実際の試合に近い状態で練習をやらせるのがいちばんいいんじゃないかなと思ってましたんで、そういう指導はしていました。それでとりあえず三十秒ごとに山場を作れるようになるだけの動きが、たとえばシャドウでできるようになったとしたら、それを今度数少ないスパーリングのときに生かせば、より身につく。だからそういったものを念頭において指導していました」
スタミナをつけるためか、信介はプロテインを愛飲した。その他の栄養剤やビタミン剤に関しても相当な知識を持っていた。ボクサーとしての身体を作り上げようと必死だったのだ。脱臼や減量に苦しめられたが、大橋や平戸にその方法について相談することはあっても、弱音をはくことはなかった。
もうひとつボクサーとして決定的な欠陥を抱えていた。目、である。中学二年の視力検査では、右〇・一、左一・五であった。視力差は日常生活には支障がなかったものの、このころから視力回復センターに通い、