スポーツ全般がぜんぜん好きじゃなかったんですよ。見るのはいいけど、やるのはちょっとな、という感じだったんで。だから、塾では勉強したという印象より、Aとか富久とかそういうメンバーと出会って遊んだということの方が、仲良くなったということの方がずっと記憶には残ってます。そういうことでしたから、競争という意識はぼくらの中になかったような気がするんです、みんなで受かろうというぐらいの感覚で。どうせぼくたちが、一人二人をここで蹴落としたって、大きな枠の中では変わんないんだから、三百人受かるんだったら、三百人のうちにクラス全員が受かった方がいいぐらいの感覚で。そういうこといえば、富久はすごく人のことに気を使っていて、麻布に行ったSが、受験の三週間ぐらい前のテストでトップをとったんですよ。Sにとっては初めてのトップでした。でも、そいつはキャラクター的に浮かれやす性質だったので、富久が『あいつはトップ取ったからといって誉めない方がいい。もしここで誉めて調子に乗っちゃうと、受験で気が舞い上がったまま行くことになって、あいつのためによくない』みたいなことをみんなにいって。それでみんなトップ取ったのを知らん顔したっていうのは、印象に残ってます。