こんな束の間のできごとはあったが、信介の不満は薄らぐどころか、募るばかりであった。外で自分の思っていることをいわない分、邦彦や節子に自分の心情を思いっきりぶちまけた。サッカー部に対してだけでなく、麻布の友人たちに対しての不満へとますますエスカレートさせた。中学一年のときから、そのいい分は変わらなかった。
「おれは麻布を辞める。麻布にはろくなやつがいない。それにお父さんは麻布に行けばきっと一生付き合えるようないい友だちができる、とかいってたけど、そんなことはない」
信介は邦彦や節子に向かって、何度も同じことを繰り返しいった。友だちの悪口も平気で口にした。負けず嫌いで人のことをあまり誉めるほうではなかったが、それにしても、と邦彦と節子はある意味では呆然としていた。だが一方で、信介が荒れて来ていることを正面から受け止めようと決心していた。
全国でも最難関校のひとつであるこの学校には、小学校では常にトップクラスにいた子どもたちが入学している。だから、おれがおれが、という気持ちは誰もが持っている。それは信介も程度の差こそあれ、変わりはない。