信介は知佳とは小学校三、四年で同じクラスだった。四年生までは学校では塾の話などをしていたものの、それ以外では余り口をきかなくなった。それどころか、五年生以降、道で会うことがあっても絶対目を合わせなくなった。
　女の子としゃべることに照れていたのかもしれない。あるいは信介なりの幼稚園との決別の仕方だったのかもしれない。いずれにしろ、信介は幼年時代を抜け出ようとしていた。意識的であれ、無意識であれ、そうやって大人への階段を上り始めていた。
知佳と慈美が信介と最後に会ったのは、中学校二年の三月。現在、富久家がある西区宮ヶ谷に引っ越すので、挨拶に行ったときだった。

「ご挨拶に行こうって、お母さんに無理やり引っ張っていかれて。私そのときパジャマ姿だったんです。最後に会った私の姿がパジャマだったのは、ちょっと恥ずかしいですね」（飯塚慈美）

「挨拶に行ったときも、最初いなくて、おばさんが呼んで出てきた。でも、目を合わせなかった」（合田知佳）