麻布にいくと決めた信介は両親と相談して、行く気のない慶応中等部の受験は止めた。
その喜びはもちろん大きかったが、信介にとっては先述のように、Jリーグのジュニアユースの試験に落ちたことのほうがはるかにショックが大きかった。塾の仲間たちも、その落胆ぶりに、慰めのことばを見出すことができなかった。
ともあれ、信介は別所小学校を卒業し、麻布中学に入学する。卒業にあたっては両親にこんなことばを贈った。
「お父さん お母さんへ お母さんがぼくを産んでからもう十二年たちました。もうすぐ小学校卒業です。十二年前はあんなに小さかったぼくがこんなに大きくなれたのはお父さんとお母さんのおかげです。これからもめいわくをかけると思うけどよろしくおねがいします。」
 それは、赤い葉書大のグリーティングカードに書き付けられた。

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