そういうことで授業をやっているけども、それ以外は勝手にやらせてもらっている。要するに学校側は教師を縛ってない。といっても自然に縛られているんですけどね、生徒たちがいるから。多分それが麻布の根源的なところ。それでそういう雰囲気が生徒全部にも広がって行っている」(高二担任 武神一雄)
こうした庇護というべきか、教育方針のもとというべきか、子どもたちはこの学園で六年間自由の空気を十分に吸って成長する。もちろん自由だけでなく、責任ということも学びつつ。それはまさに、邦彦が信介に与えようとしたものであった。しかし、この空気を満喫できるのは、選ばれしもの、一学年三百名にしか過ぎない。公立の中学校で、校則がない、教師が自由である、ということは皆無に近いだろう。私立でも珍しいのではなかろうか。
「デケェーやつ」
そんな環境に身をおいた信介は、希望に燃えていたに違いない。まだプロのサッカー選手になることを諦めてはいなかった。当然のごとく、入学早々、サッカー部に入った。