第六章 自由奔放な学園生活
信介が中学二年のある日、邦彦は信介に何か格闘技をやったらどうかと、勧めた。
「男はどこかで腕力がないために、屈辱を味わうことがある。何でもいいから、やってみたらいい。空手でも、柔道でも、合気道でもなんでもいい。強くなれば、やられることもないし、逆に人に対してやさしくなれる」
荒れてきた信介に正対する邦彦流のやり方だった。「麻布で一人だというのなら、一人でいいじゃないか。一人でできることをすればいい」と元気付けながら、あり余るエネルギーが悪い方に向かわずに、いいように発散できればとの思いであった。
信介が選んだのはボクシングだった。邦彦は東京急行東横線沿線にある笹崎ボクシングジムに電話して入会を申込んだ。実際の申し込みには、信介が一人で出かけた。一九九六年七月のことだった。ボクシングは、信介に新たな目標を与えてくれた。それについては、第九章で詳しく述べることにするが、このことで、兄弟関係にも変化が生じた。