「あいつは高一の終わりにラグビー部に入るまでは、基本的にトランプを切りながら毎日おれのクラスにきて、トランプをどんと置いて、『さあやるぞ』という感じでした。ぼくものってました」
麻雀が終わった後、倦怠感や疲労感に襲われることがある。信介はそんなとき、女性の話や品のない話、たわいもない話を本音とも冗談とも取れる調子で牛島にしている。その中で珍しく、女気がまったくなかったと衆目の一致する信介が、ガールフレンドが欲しいと、こぼしている。
「彼女がいるやつとおれと富久とで山手線に乗ったんです。そのときあいつがひとりぼろ負けしたときで、『なんでだよ』みたいな感じで足を投げ出しながら、『おれも彼女が欲しいな』みたいなことをぽつんといったことがありました。『おれは、顔はともかくスポーツが好きで、明るい好青年なのに』みたいなことを自分で冗談めかしていっていました」
そんな折だろうか、家族のことをまったくといっていいほど話さない信介が友だちに、「うちの親父は頑張っている」というようなことをポツリと洩らしたりしている。