スキー場でもギャンブル


 勝負事が好きだということは、信介の場合、負けず嫌いの発露である。もちろん、理論的に物事を捉え、考えるということが好みだということもその一因ではあっただろう。勝負で確率を測るのは、感ということもあるが、もっぱら論理的な思考だから。それはさておき、勝負に負けると信介は極度に悔しがった。
「休み時間にやってるカード麻雀とかトランプとかで負けるとすごい悔しがっていましたね、切れたりは多少ですが。そういうゲームとかをやって、たとえば相手がいかさまをしてたというのがわかって、ちょっと喧嘩になったという話は聞いたことがあります。熱くなってたときにそれを見つけて、『なんでお前、そんなんことやってんだ』っていって。でも、それはあいつでなくても、当然怒りますよ」(川岸亮造)

 信介は負けず嫌いではあったが、勝つためにいかさまをやったりすることはほとんどなかった。仲のいい連中とふざけているときは別だが。勝つために汚い手を使うことは自分に戒めていたようだ。「お父さんはまともすぎる」と邦彦に対して非難めいていっていた信介だが、そのことを自分の美学として持っていたのかもしれない。

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