多分それは麻布生の受け売りだと思うんですけど、多分心の中ではぜんぜんそういうことは思ってないんですよ、ただ、そういうのをいいたがるというか。そういうときは『兄貴、まいってるなあ』みたいな感じで聞いてた。でも、そればっかだと、こっちも聞く気がしないんだけど、そういう考えじゃないんだろうと、いっつも思ってた。『麻布が嫌だ嫌だ』といっても、官僚みたいな、とにかく何でもいいから力というものに半分は憧れていた。半分というか、二十㌫は憧れて、八十㌫は否定するということなんですが、それでも力があるというその部分だけに何となく、偏って行くこともあった。結局は、『でも違う』という、そういうふうないい方だと、思うんですけど、そういう意味じゃ素直だったんじゃないかな、と思うんです」
殴ることの美学
信介はよく人を殴っている。だが、だからといってとりわけ乱暴だったわけではない。サッカー部のキャプテンを殴ったり、運動会の棒倒しでの先輩への狼藉は論外としても。本人自身も切れたことはない、と友人たちに話しているが、頭に血が上りやすいことは確かだった。