そうは見えませんでしたけれど、やっぱりお坊ちゃんだったからなんで。おれ自身もその時期甘やかされていたけど、あいつは甘やかされている強みというのを全面的に出していたんじゃないでしょうか」(牛島正道)

 邦彦は信介のことであれば何事であれ、正面から受け止めていたが、先回りをしてお膳立てを整えてしまい過ぎるようなところがあった。何でもいうことを聞いてやる式の溺愛ではむろんないし、信介の方からもわがままをいうことはほとんどなかったが、違う意味で溺愛していた。だからこそ、信介は外では出さない自分の不満を思い切り家でぶちまけることができた。友人たちの悪口をいい募り、麻布を攻撃する、荒れた調子は高校一年まで続いた。
「ぼくら兄弟は、家にいるときはそんなに話さないわけじゃないんですけど、学校に行くとあまり話さないんですよ。ぼくは、常にある程度緊張している。相手が自分をどう見ているかということをいつも気にしていると思うんですよ。多分その心境と同じだったんじゃないかなと思うんですよね、兄貴も。だからうちに帰ってくると、その緊張が解けるという部分がありますよね。

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