試合は一進一退の攻防を繰り広げた。雨のためグランドコンデションは悪かったが、両チームともふんばり、前半を〇対〇で折り返す。後半になってもしばらく膠着状態は続いた。中盤過ぎ、自陣の二十二メートルライン付近で麻布がラックを支配した。バックスがアタックラインを引いた。ところが、ボールは相手側に出た。一瞬ボールを見失ったスクラムハーフの隙をつかれ、奪われたのだった。そのまま走りこまれトライ、この試合、初めての得点が生まれた。そのとき信介は切れた。
 スタンドオフの渡慶次道隆と、バックスラインにいた石津顕太郎では、このときの印象がやや異なっているが、二人ともそれに鼓舞されている。
「彼がトライをとられたときに泣きながらというか、『なんで止めねぇんだよ』と叫んでいたのを憶えてます。ラグビーの試合中、あいつは結構熱いんですけど、叫んだりするほど熱くなっているのを初めて見て、最後の試合で彼もすげえなと思って。あいつがそれほどまでに叫んだりするの見たことなかったから。泣きそうになりながら叫んでいたんですよ。そんときはおれらも泣きながらやってたんですけど。おれがミスして、インゴールでノッコンした。

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