第九章 ボクシングに求めた自己実現


「ドスドス」「バスバス」「トントントン」「ピー」。これらの音に加えて、軽快なメロディーのポピュラー音楽が流れる。それにコーチの声も混じる。あまりの音の洪水に、ポカンとしてしまう。ボクシングジムは「汗とワセリンの匂いのするところ」と聞いていたが、「うるさいところ」というのが、第一印象。パンチングボール、サンドバッグ、ミットを打つ音、あるいはロープスキッピング(縄跳び)をする音である。ピー音は三分と四十秒の間隔で、ジムの練習の初めから終わりまで繰り返される。三分練習、四十秒休憩。こうやってボクシングの一ラウンド三分を身体に沁みこませるのである。
「練習は、体操して、シャドウボクシングで三ラウンドぐらい動いて、サンドバッグを五ラウンドとミットを二ラウンド打つ。その後、シングルウォールというのを二ラウンド、ダブルという跳ね返ってくるのを二ラウンド。次にロープを二ラウンド、腹筋を百回ぐらい、という流れです。たまにその中にスパーリング三ラウンドというのが入るときもあります。これがだいたい富久がやっていたメニューですね。これでくたくたになります。

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