大橋はこのエリート校生に興味を抱いた。練習は真面目にやるし、実際に話してみるとなかなか面白い。
「ぼくらから見ると、エリート中のエリートじゃないですか、麻布って。だから、すごい興味があって、どんな人間がいるのかとか聞いたりして。ＯＢで作家の安部譲二とか、橋本元総理大臣の話とかもしてましたね。あんまりいいようにはいってませんでしたけど。で、学校は面白くないとか、自分がちょっと浮いた存在になってるというようなことも、聞きました。ともかく麻布高校の話が多かったですね。株の話とかもしましたけど、何だか、『インターネット関連の株を買えば会長儲かりますよ』っていわれましたね。ぼくはボクシングの話してるより、そういう話のほうが多かったような気がします。よく話しましたよ。だから、ご両親は無口だったというんですごい意外でしたね。このジムの中で富久が無口だと思っているやつは誰もいないですから」

　家以外で学校のことを愚痴るのは珍しいことである。というよりは、そういう相手がいなかった。それだけに、大橋にどれほどの親近感と信頼を寄せていたかが窺い知れる。