だから、信介は大橋としばしば軽口をたたき合った。自分のパンチ力に自信のある信介は、そんな折にプロになってボクシングをやりたい、やらせてくれとせがんだ。大橋も信介がプロ向きだと認めていたが、冗談めかしてよくこういったものだ。

「『大学生になったら、プロになる。やらせてください』って、よくいってましたね。だったらというので、『東大に行ってプロになったらお前、マスコミとかで騒がれるぞ。でも、東大に行くとなると、ボクシングを引退して勉強しなければなんないか』とかいって、からかったり、『自分が事業を起こして、ジムのスポンサーになって上げます』というから、『じゃあ、ボクシングはそんなに頑張らなくていいよ』っていってやったり。そうしたら、むきになって、『どうしてもプロのリングで戦ってみたい』って、いってましたね」

本人がその気になっていたかどうか知る術はないが、ビッグマウスでもあった信介は「東大は後期の論文試験で受かる」と、ほざいてもいた。
本人にはこんな冗談をいいながらも、大橋は真剣に信介のことを考えていた。

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