相手に何のダメージも与えないことになるからである。

素直な反応

　練習では、それなりの技術を教えられ、それを習得していくことに惜しまず努力するにもかかわらず、生来の負けず嫌いが災いしてか、信介はどうしても一発勝負に出がちだった。アマチュアボクシングは的確にどれだけパンチを当てたかが、判定の基準になっている。プロのように、相手にどのくらいダメージを与えたか、ではない。そういう意味では、信介の戦い振りは、アマチュアのそれではない。しかし、平戸はそれがわかっていながらも辛抱強く付き合ってくれた。だからというわけだけではないだろうが、信介は平戸のいうことは素直に聞いた。
「たとえば『これこれこうしなきゃ駄目だよ、こういうふうにすべきだよ』というふうな話をしたときに、『けど、こういうふうになっちゃったらどうするんですか』とか、そういうふうなことはありました。でも、私は私なりにとりあえず説明できたつもりではいますから、それで彼も『そうですよね』ということで理解してくれていたと思います。