しかし、そのとき信介は、五月にある関東大会の都予選を視野に入れて、トレーニングを始めていた。寝ている虎の尻尾を踏んだ感のある邦彦だが、信介の気性では、「おれは先を見越してすでにトレーニングを始めている」と穏やかにいうべくもなかった。
それはそれとして、脱臼癖を直すためのトレーニングはきわめて地味である。
「アウターマッスルとインナーズマッスルというのがあるわけですが、筋肉がアウターマッスルで、インナーズマッスルは確か腱、細い筋みたいなもの。それで、このふたつのバランスが悪くなっちゃうと、比較的脱臼癖がついたりするらしいんです。つまり、インナーズマッスルの方が弱いから起こる。しかし、私は医学的なことは指導できないので、医者に行って、肩が外れないようにするためにはどういうトレーニングをしたらいいかを相談しきなさい、と。外れる癖がついてるから、それを完全に打開するまでにはいたらないかもしれないけど、その癖をすこしでもとるようなエクササイズというかトレーニングというか、そういうものは医者から直に聞いたほうがいい、と。

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