大橋ジムの選手たちは強かった。最後の川嶋勝重のノックアウト勝ちを含めて六勝一敗の戦績だった。
六試合終わったところで、「富久信介杯」の授与式がリング上で行われた。大橋をはじめ、ジム関係者五名と邦彦、節子、恭介が上がった。さらに、信介が憧れていたWBAライト級世界チャンピオンの畑山隆則の姿もそこにあった。挨拶に立った大橋は「リングは夢の続き。明日のリングにつなぎたい」と語った後、「テンカウント」のゴングが鳴らされ、会場すべての人たちが頭を垂れた。
「第一回富久信介杯」を獲得したのは、一回五十四秒で相手をノックアウトした、同じジムの森本裕哉である。邦彦は森本にトロフィーを渡し、こう挨拶した。
「名もない高校生ボクサーのためにこのような追悼試合を開催していただいて、ありがとうございます」
他にことばは出なかった。
森本は後のインタビューにこう答えている。