次に続いた言葉は、生涯忘れることのできない、胸を切り裂かれるような悪夢を伝えるものだった。長男の信介がこの日の朝、中目黒駅で起きた営団地下鉄日比谷線の事故で犠牲になったというのである。それを聞いた瞬間、頭の中は真っ白になった。
「遺体はあるのか。どうして信介だとわかるんだ」

「学生証があります」

ことばを失った。「何も考えたくない、こんなことは到底受け入れることができない」と、邦彦は急いで拾ったタクシーの中で何度も繰り返し思った。そこから、妻の節子に連絡を取った。

「信介が死んだ」

気持ちが整理できない邦彦は、信介の母親である節子にそう伝えるのが精一杯だった。事故が起こったことを知っていた節子は、心配してずっとニュースを見ていたが、約束をしていたため、友人宅を訪ねていた。電話口で節子は泣き崩れた。しばらくして、親だからと自らにいい聞かせて、麻布学園に連絡を入れる。

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