直ぐに校長の根岸隆尾が出た。すでに学校には警察から悲報が入っていた。
 目黒警察署で遺体を確認するように要請されたが、顔の左半分が無残にもない。信介ではない。そう思いたかった。

「違う」

 思いが口をついて出た。しかし、左肩にある痣はまぎれもなく信介のものだった。信介に違いないその特徴を前に、無残な姿に変わり果てた息子をそれと認めないわけにはいかなかった。前夜、この日、英語の期末試験があるから、わからないところを教えてくれと、父親に聞いてきた息子に間違いなかった。顔を除けば身体には傷がほとんどない。邦彦が昨夜、アトピーで痒いからと掻いてやった背中はそのままであった。

 三月十一日、横浜市の富久家にほど近い斎場で告別式が行われた。
 三人の友人たちが弔辞を涙ながらに読み上げる。
「お前の親父さんに『弔辞を読んでくれ』と言われた時、『はい』と言ってしまったけど、俺の中にはお前を送る『別れの言葉』はない。

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